エゴマ油(荏胡麻油)

麺棒の表面の仕上げには、乾性油を用いる場合、胡桃油が一般的に使われている。
但し、胡桃油の硬化の速度は遅く、一度に塗る量が多すぎると、表面がべたついた麺棒になってしまう。
胡桃油で麺棒を仕上るには、時間と根気が必要である。

TOKYO蕎麦塾のKさんから、エゴマ油が麺棒仕上げに良いという話を聞き、現在製作している巻き棒にエゴマ油を使ってみることにした。

エゴマ油を使うにあたり、エゴマ油の素性を調べてみた。
食用油としてのエゴマ油はWEB上でいくつも検索出来たが、学問的に説明しているサイトは少ない。
この中で、エゴマの普及に力を入れている日本エゴマの会のHPが目にとまった。

エゴマ油を食べるのではなく、麺棒の仕上に使うという見方で、日本エゴマの会に質問のメールを送ったところ、代表責任者の村上守行氏から早速、詳しいご返事を頂いた。
このメールの内容と他で得た情報をもとに、エゴマ油について説明する。

1.乾性油としての性質
油の分子はグリセリンと3個の脂肪酸の組み合わせで出来ている。
結合している脂肪酸が不飽和脂肪酸の場合、不飽和部分に酸素が取り付き、この酸素を媒介  として他の不飽和脂肪酸と結合して次第に流動性を失い固体となっていく。(重合結合)
この性質を持つ油を乾性油という。

同じ乾性油でも脂肪酸の不飽和度により、硬化する早さが異なってくる。
不飽和度の高い油ほど他と結合する手を沢山持っている訳であるから硬化するスピードも速  くなる。
エゴマ油は胡桃油よりも3割以上、不飽和度が高い。

2.エゴマ油の製法と特徴
原料のエゴマを加熱せずに圧搾し油をとる方法を低温しぼり、または生しぼりといい、エゴマを焙煎した後圧搾し油をとる方法を焙煎しぼりという。焙煎しぼりはエゴマが120〜150℃まで加熱されるので、重合が進み、生しぼりに較べて粘性のある油となる。

生しぼりの油は黄金色をしているが、焙煎しぼりの油は小麦色を呈してくる。
臭いは、生しぼりはかすかなシソの香りがする程度で無臭に近いものであるのに対し、焙煎  しぼりは、胡麻に似た強い香りがし、酸化が進むと、魚の油の臭いがするようになる。

精製して、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭を行うことにより、無臭の透明な液体となるが、精製の  過程で熱を加え、薬品(触媒)を用いたりするので、酸化を防ぐための酸化防止剤が加えら  れている。

3.麺棒の仕上げに用いるのに適したエゴマ油
市販されているエゴマ油は食用のものが多いので、麺棒仕上げに適さないものもある。
生しぼりで添加物の無いものが最適である。純正エゴマ油
焙煎しぼりの色の濃いものについては、乾きが悪く、べとつき感が残り仕上がりが悪いようだ。
無色透明のものは、精製する過程で酸化防止剤が入っている可能性が高いので、硬化しにくく、麺棒仕上にはお勧めできない。

4.麺棒に油を塗るとき注意すること
他の乾性油を用いるときも言えることであるが、表面が十分に硬化する前に次の油を塗ると  表面の滑りが悪くなる。滑りの悪い層を重ねていっても、決して滑りのよい麺棒にはならない。
  
油を塗る方法として、少量を手のひらにつけ両手をこすりあわせてから、麺棒をしごく方法  をお勧めする。
しごいたときの麺棒の滑り具合に注意し、滑りが悪いようであれば手入れの間隔をもっとひ  ろげ、かつ、塗る量を少なくすること。様子を見ながら一度に塗る量を加減していけばよい。


 左から順に、エゴマ油を毎日1回塗って2週間、1週間、素地のままの米ヒバの麺棒