つけ汁(辛汁)の場合は、かえしとだし汁の比率を1:3.3としたので、だし汁2Lにかえし0.6Lを
加えて加熱する。
温度計で温度を測りながら、85℃になったところで火を止める。
この場合、注意しなければならないのは、だし汁のBrix濃度のばらつきである。特に、少な目の
削り節を長時間煮出して濃縮するほど、ばらつきは大きくなる。
 
鰹節量、煮詰率、そば汁濃度の関係

だし汁の濃度に合わせて、かえしの量を微妙に加減するのは、最後は人間の味覚にたよらざるを
得ない。
どんなに高感度の濃度計でも、味のバランスを保つという点では、人間の味覚にはかなはない。


だし汁を小皿にとり、かえしを少しづつ加えていきながら味をみると、鰹節の味がだんだんに醤油
の味に変っていく過程で、急に醤油の味が優ってくる割合がある。その一歩手前が、だし汁と
かえしが絶妙なバランスで混じり合っている点である。この味を良く見極め、記憶した上で鍋の
だし汁にかえしを加えていけばだし汁とかえしのベストな組み合わせのそば汁が出来上がる。
自分に舌でこの比率を求めてください。

味覚というものは、舌で得た情報を脳に蓄え、判断することに始まる。旨いという情報だけでは、
脳の味覚エリアの活性化には繋がらない。まずいという情報も取り入れることにより、味覚の
センサーが磨かれるそうである。

かけ汁(甘汁)の場合
かけ汁の濃度は辛汁の約半分である。
辛汁を二番だし(一番出しを引いた後の出しガラに一番だしに用いた量の1/2のお湯を注ぎ、
加熱し、沸騰を3分間続けた後、火を止め、3分間静置してから、上澄みを取り分けたもの)を
加えて2〜3倍にうすめるのが簡便な方法である。

濃度が薄くなった分、味に濃厚さを加えるために、削り節に宗田節や鯖節が鰹節と混ぜて用いら
れることが多い。この場合、削り節の量は辛汁の場合の70%程度、煮出し時間は鰹節の場合より
短く、20分程度である。
かえしとだし汁の割合は1:6〜10で、味を見ながら調整する。

そば汁は少量しか作らない場合は味が落ち着かず、また大量に作ると使い切れず余ってしまう。
そば汁の味を変えずに保存する方法をいくつか試してみた。

そば汁を85℃で低温殺菌した状態で無菌状態に保ち保存する方法。
ペットボトルを清水で良く洗浄しておく。 キャップは熱湯消毒しておく。
だし汁とかえしを混ぜて85℃に加熱したそば汁を、急いでペットボトルに移す。
蓋をしても空気が中に入らないよう容器一杯に注ぐことがポイント。
熱湯消毒したキャップで手早く密閉する。この状態であれば、ペットボトルの中は無菌状態である
のでキャップを開けなければ、常温でも1週間は保存できる。(これ以上の期間はまだ試してい
ないが、2,3日後に、味はほどよく馴染んでとても良い状態になる。)

冷蔵庫に保存する方法。
容器からそば汁を取り出したとき空気が入ると、冷蔵庫に保存しても、3,4日で味が変ってくる。
1週間は保存できないと思ったほうが間違いない。

冷凍して保存する方法。
容器に入れて冷凍庫で氷にしてしまえば、半永久的に変質しないが、氷結と解凍時に味がバラケ
てしまう。使用するときに湯煎若しくは85℃に温めることにより、味はかなり回復する。

小さなペットボトルに小分けして、使用するまでの日数に合わせて、保存する方法を選ぶのが
良いようだ。

最初に、だし汁の削り節の量と煮詰率を決め、出し汁のBrix濃度を求める。
水に対する鰹節の量を8%とし煮詰率を80%とすると、鰹節量、煮詰率、そば汁濃度の関係
より、だし汁のBrix値を2.3±0.5%となる。そば汁の味を決めるには、だし汁に対し何%の
削り節を用いたかがより重要になる。この場合、だし汁に対し、10%の削り節を用いることになる。

次に、かえしの調合をおこなう。
濃い口醤油1Lに対し、味醂は醤油の1/5の200mL、砂糖の量は180gとする。
砂糖の方が、味醂よりそば汁の濃度に与える影響が大きいので、最初の段階の調整は砂糖
の増減で行い、微調整は味醂の量でおこなったほうがやり易い。

記号 単位           計算式
醤油の量 A リットル 1
醤油の比重 A1 1.18
醤油のBrix値 A2 0.36
砂糖の量 B kg 0.18
砂糖の量比重 B1 1.6
味醂の量 C リットル 0.2
味醂の比重 C1 1.2
味醂のBrix値 C2 0.45
加水(蒸発) W リットル 0  (湯煎せ蒸発させた場合はマイナスの値)
かえしの量 E リットル 1.32 E = (A*A1 + B + C*C1)/E1
かえしの比重 E1 1.22 E1 = (A*A1 + B + C*C1 + W)/(A + B/B1 + C )
かえしのBrix値 E2 0.445 E2 = (A*A1*A2 + B + C*C1*C2 )/(A*A1 + B + C*C1)

上の表の計算式より、かえしのBrix値は0.445となる。
かえし1の容積に対し、だし汁の容積3.3を混ぜ合わせると、

かえし1に対するだし汁の量 3.3
だし汁の量 D リットル 4.356
だし汁のBrix値 D2 0.016
そば汁のBrix値 F2 0.14 F2 = (E*E1*E2 + C*C1*C2 + D*D2)/(E*E1 + C*C1 +D +W)

そば汁のBrix値は0.14となり、Brix濃度14%のそば汁が出来上がることになる。
以上の値を
「黄金の三角地帯」にあてはめると、




そば汁のバランスは太い黒線のような三角形になる。
そば汁(辛汁)の濃度が少し薄めのようであるが、できたそば汁の濃度を測定してみると、 Brix濃度は13.8%で計算値にほぼ合っていた。

湯煎の効果
だし汁4.4Lを湯煎により1Lの水分を蒸発させ、3.4Lに詰めた。
計算上からBrix濃度17.2%のそば汁となった。
その結果、黄金の三角形の中に収まり濃い目のこくのあるそば汁ができた。

湯煎とは大鍋の中に汁の入った陶器の甕を入れ、間接的に加熱し水分を
蒸発させると同時に味をまろやかにすることをいうが、汁の入った容器を
直接弱火で加熱することにより同じような効果が得られる。
                   追加 湯煎の効果 '071009

私のそば汁の出しの引き方は、なんとかのひとつ覚えで、本鰹の厚削りを40分かけてことこと煮つめる方法でした。
この方法は濃厚なだし汁がとれますが、大量にだし汁を作るとなると問題が生じます。
熱源も問題、容器の問題等々・・・。

昨年のあるイベントのときは広口大鍋に家庭用のガスコンロでトライしましたが、鍋の温度が上がらず、
蒸発がどんどん進んでしまい、出しのエキスが溶出せず、取り出した出しがらはカツオのエキスが残った美味しく
食べられる状態でした。(失敗!)

今年もそば汁を30Lほど作りましたが、鰹節のパウダー状のものを用いてみることにしました。
いろいろ調べてみると、パウダー状のものは引きすぎると(煮出しすぎると)雑味成分まで抽出してしまう。
パウダー状のものは熱湯を上から注ぐドリップ方式、顆粒状(粗挽き)のものは中火で15分くらい煮出すのが良い
ことが分りました。

石田潮司朗商店のパウダーを買い求め、熱湯を上からかけるドリップ抽出法で出しを取りました。
欠点はお湯をたっぷり用いるため、出来ただし汁の濃度が低くなるということ。このため、だし汁の水分を蒸発させて
濃度を上げるか、かえしと混ぜてそば汁にしたあと、湯煎で水分を飛ばすかの方法をとる必要があることです。

そば汁をまろやかに熟成させる点では、後者の湯煎がすぐれています。
湯煎といっても陶器の壺に入れた汁を大鍋のお湯に入れる本格的な方法は諦め、容器を弱火にかけて蓋をとった
状態で時間をかけて水分を蒸発させる方法を取りました。

湯煎の目安は汁の濃度が16〜17%なるまでとし、12リッターの汁を10リッターまで詰めました。

そのときのレシピをご紹介します。

9.(参考) 鰹節にパウダー状のものを用いた場合

冷凍庫で凍らせて保管した場合は、味がバラバラになっているので、
湯煎もしくは、85℃に加熱して味をととのえてから使う。

「鰹節の成分の加熱時間と抽出量の関係」からも分かるように、鰹節の旨み成分である
5’イノシン酸は40〜45分の加熱で抽出量の90%近くが溶出してしまう。
これ以上加熱し沸騰させることは、水を蒸発させて抽出したエキスの濃度を高めることにのみ
効果がある。
おそば屋さんがおこなう長時間の加熱は、煮出し効果と煮詰め効果の両方を狙ったものであるが、
エキスの濃度が高くなった状態で削り節が存在すると、
「だしが帰る」現象が起こる。

効率よくだしを引くためには、40〜45分間沸騰を抑えながら加熱し、鰹節を引き上げたあと、
グラグラ沸騰させ所定の煮詰率まで持っていく方法が考えられる。
量が少なければ、恒温に保てるサーモ鍋で40〜45分間置いた後、加熱沸騰させて煮詰める
という手もある。
サーモ鍋
(真空調理鍋)をお持ちの方は、一度、試してみてはいかがでしょう

5.煮出し時間と煮詰め時間

コーヒーポットに水2.5Lを入れ、昆布10〜20gr(出来上がりだし汁の0.5〜1%当たる)を投入し6時間ほど放置する
(昆布は縁のギザついたところを切り落として製品にするが、このとき出る周辺の切り落とした部分は、
切り落とし昆布といい、だしの出も同じで価格も安い。)
コーヒーポットを加熱し、沸騰する前に
(70〜80℃以下*)昆布を引き上げる。(昆布は切り刻んで煮物に使える。)
沸騰したところ
(沸騰する直前**に削り節を2cm角程度に割ったものを投入する。

このとき、ゴミ等が泡に付着して浮上してくるので、こまめに掬い取る。(目細かい網目のついた、
天婦羅のカス取りが丁度良い。)
丁寧に灰汁を取ることにより、生臭い成分が取り除かれるので、沸騰しても泡が消えずに残って
いれば手を抜かず取り除くこと

煮詰率が80%であるので、40〜45分で水分が20%程蒸発するように、火力を調節する。 
ポットから別の鍋にだし汁を移す。だし汁に鰹節の小片が混じっていれば、キッチンペーパ等で濾し取る。

  (  )内追記('06.12.16)  *  沸騰若しくは100℃に近づくとアミノ酸以外の雑味となるエキスが溶け出す。
                  
** 水中の空気が気泡となって微小なゴミを伴い浮き上がるのを利用する。

濃い口醤油1L、みりん200ml、砂糖180grを計量し、容器に取り分ける。
鍋にみりんを入れ、中火で加熱し泡立たせてアルコールを蒸発させる。
砂糖を加え、中火で良くかき混ぜて砂糖をみりんに溶かす。
砂糖が溶けたところで醤油を加える。
温度計で温度を測りながら加熱し、85℃になったら火を止める。
冷めたら、広口の容器に移し、キッチンペーパー等の通気性のあるもので蓋をする。
冷暗所に1〜2週間ほど寝かせる。
注意すること: 砂糖を焦がさないこと、醤油は沸騰させないこと

3.かえしを作る

Fコーヒーポット(2.7L)
G秤
Hメジャーカップ
I鍋(2L程の大きさ)
J温度計
Kカス取り

@醤油 「そば膳」1.8L
Aみりん 「三州三河みりん」
B砂糖(中ザラ糖)
C広口の容器
D昆布  切り落とし日高昆布
E鰹節
  「本鰹厚削り」  荒本節を1〜1.5mmに
  削ったもの

2.準備

6.かえしとだし汁の混合

7.そば汁の保管

1.調合計画

出来上がったそば汁2.6Lを
いくつかの容器に取り分ける。
左から、
・1Lのペットボトル(空気を
完全に抜いて密閉してある
ので常温で1週間は保存可
能である。)
長期にわたり保管したい
場合は冷凍庫で凍らせて
保管する。
・500mlのペットボトル。
冷蔵庫に入れて小出しに
使う。
・225mlのビニール袋詰め。
(3食分)
そばと一緒に付ける。
・150mlのビニール袋詰め。
(2食分)

4.だし汁を作る

火にかけ、85℃まで加熱する。
85℃に加熱することで、雑菌
は死滅する。
好みに応じ、湯煎を行い水分を
飛ばす。
保存用の容器に移すときは、
冷めないうちに手早く行うこと。
保存容器も熱湯で滅菌すれば
完璧であるが、容器をよく
洗浄して、85℃近いそば汁を
容器一杯に入れ、空気を追い
出した状態で密閉すれば、
無菌状態に保つことが出来る。

だし汁2Lに対しかえし600mlを
加え混ぜ合わせる。
加えるかえしの量は、あらか
じめ混合テストを行い、ベストの
味になる配合比を求めておくか、
580mlくらいまで加えた後、少しづつ
加えながら味見をし、醤油と出しの
味が相殺して薄くなったところで打ち
止めする方法がある。この方が間違
いは少ない。

8.そば汁つくりの手順(写真説明)

切り落とし昆布
見た目は悪いが、だしを引く
効果は変わりない。
(10〜20gr)

本鰹厚削り
(200gr)

荒本節(カビ付けされていない
本節)を1.0〜1.5mm厚に削った
削り節

コーヒーポット(2.7L用)に
水2.5Lを汲み昆布を入れ、
6時間放置した後、加熱する
前に昆布を引き上げる。

左が引き上げた昆布。
(他の料理に使える。)
右が細かく砕いた削り節。
(200gr)

泡と一緒に浮き上がった
ゴミやアクを小まめに
掬い取る。

45分間加熱し沸騰させた後、
ポットからメジャーカップに取り
出し、計量しながら別の鍋に
移す。
このとき、削り節の小片が
混じるようであれば
キッチンタオル等で、漉し取る。

計量した結果、だし汁の量
は1.7Lとなり、目標の2Lより
300mlほど、少なかった。

だし汁が目標より大目にとれた
場合は、鍋を火にかけて、
目標の量になるように
沸騰蒸発させる。

足りないようであれば、
以下の方法で追加する。

だし汁をとったポットの中に、
二番だしをとる要領で、
水を加え、再度加熱し、
できただし汁をカップに追加し、
2Lになるようにする。

鰹節200gに対して、だし汁が
丁度2Lになるように調整し、
だし汁の濃度が一定になる
ようにする。

最後に、追加して計量しただし
汁を鍋にあけ、だし汁作りは
完了する。

あらかじめ作り置いたかえしを
カップで計量する。
かえしの比重は1.2以上ある
ので、重量ではなく容積で
計量する。

削り節200grを沸騰したお湯
の中に投入する。

フレームを消す

戻す